2018年11月26日月曜日

それはあたりまえじゃない! 対話を通してここちよさと自由を追求することが社会を少し動かす道

川上村では、色んな人が参加しながらホームページを使って情報発信する「 むらメディアをつくる旅 」を開催しています。今回は大辻孝則さん・早稲田緑さんをインタビューし、インタビューに参加した5名(久保田紗佑歌さん、小池悠介さん、齊藤美結さん、若林佐恵里さん、花輪佑樹さん)が記事を作りました。川上村のホームページには小池さんの記事を代表例として掲載しています。本記事では、若林さんが作った記事を掲載します。

それはあたりまえじゃない!
対話を通してここちよさと自由を追求することが社会を少し動かす道

自分にとってあたりまえだと思っていたことが、実は誰かにとってはそうではなかったという経験はありませんか?たとえば、会社には通勤するものとか、結婚する時は婚姻届を提出するものとか、そういうふうに考えていませんか。自分がどう思うかなんて立ち止まって考えることなく、常識だと思って無条件に受け入れていることはありませんか。

今回のむらメディアの旅で、「あたりまえ」や「常識」を軽やかに打ち破って人生を自分のものにしていくふたりに出会いました。大辻孝則さんと早稲田緑さんです。ふたりは事実婚で夫婦となり、一児をもうけました。「あたりまえ」を疑いながら、自分にとってここちよい家族の形は何かを問い、常に家族をアップデートしてきたというふたり。

あたりまえ人間のわたしには「事実婚ってなに?」「どうして事実婚?」「子どもの名前は?」などなど「?」がいっぱいで聞きたいことだらけでした。そこで、川上村高原に住む大辻孝則さん、早稲田緑さんにインタビューさせていただきました。(以下、孝則さん、緑さん)


●川上村で暮らす一見ふつうの移住家族

孝則さんは川上村生まれ、川上村育ち、高校から大学まで川上村を離れたこともあるけれど、大学卒業後は川上村役場に勤務しています。自然環境のよい場所で育ったので、都会のエアコンが苦手だそう。

早稲田緑さんは横浜生まれ。6年前までは東京でバリバリ仕事をしていました。多忙な生活の中で「このままいったら、自分に投資ができない。もっと生命力をあげたい」そんなふうに思うようになりました。そこで偶然みつけた川上村の地域おこし協力隊に応募。採用されて、川上村に来ました。


二人の住む川上村高原という集落は、民家が山にへばりつくようにして建つ谷あいの村。車を止めた道路から、まっすぐ上を見上げると家があります。急斜面をぐねぐねとまわりながら登ると、孝則さん緑さんの家がありました。近くには柚子の木があり、たわわに実った柚子を孝則さんと息子のミキトくんが収穫してくれました。「どうじょ(どうぞ)」と旅の参加者に柚子を笑顔で手渡すミキトくん。自然の恵みとやさしさをいっぱいもらってすくすく育っているのが伝わってくるような笑顔でした。


「住んでくれるだけでいいから」と借りている家は南向きであたたかい光のはいる古民家。「冬は光がはいるように、夏は入らないように考えて建てられているんですよ」と孝則さん。川上村の特産でもあるスギやヒノキの木をふんだんに使ってリノベーションしたというキッチンやリビングは初めて来た家なのに、不思議に落ち着く空間でした。「木をたくさん使っているということは子どもの情緒のためにもいいと思うんです。根拠はないけど」と笑う緑さん。川上村ではゆっくりと時間が過ぎて行きます。


●管理されることへの違和感。自分の思いを大事に事実婚へ。

川上村伝統の和太鼓を子どもに教えていた孝則さんと「何か楽器をさわりたい!」と思っていた緑さんは川上村の和太鼓のイベントで出会ったそうです。和太鼓を通して会ううちに、仲が深まり、自然な流れで一緒に住むようになりました。

「そのままだったら普通に一緒に暮らしていただけだったと思う。結婚はしたくなかったから」と緑さん。だけど、今2歳のミキト君がお腹にいるとわかってから事情が変わりました。現行の民法では、籍を入れていない母親から生まれた子どもは父親とは全くの他人になってしまいます。「それは困ると思いました。孝則さんがミキトの父親であること。わたしたちが両親であることを認めてもらいたい」「でも、入籍するのは違和感がある。どうして女性が名字を変えなきゃいけないのかわからない」そんな葛藤の中、緑さんが自分の考えを率直に孝則さんに伝えました。孝則さんは「結婚するならふつう婚姻届はだすもんやろ?」と思いながらも「でも、待てよ。なんでこんなシステムになってるんやろう」と疑問を持ったといいます。そして、結婚制度、戸籍制度について紐解いていくと、それは明治時代にはじまったこと、そして政府が国民を管理するために家族になっていたほうがやりやすかったからだという事実にいきあたります。孝則さんはそこまで知ったうえで、「それなら、籍は要れなくてもいい。管理されるのはいややからね」と笑顔で話してくれました。


二人は川上村の神社で結婚式をあげました。家族だけの小さなものにするつもりでしたが、結果的に村の人たちが50人ほど来てお祝いしてくれたといいながら、緑さんは結婚式の写真をみせてくれました。

●正社員だけど週4完全リモートワーク


緑さんはこうも続けます。「わたし、会社員だけど完全なリモートワークで週4回しか働いていないんです」それを聞いた私たちは目がテンに。「入社する時にそういうふうに交渉しました!わたし子どもがいるから」と。「ふつう正社員なら通勤して週5でしょ」と参加者の心の叫びが聞こえるようでした。緑さんは「通勤時間は無駄だし、非効率なことをちゃんと排除すれば、週4日で仕事はまわりますよ」と実は誰もが心の中で叫んでいながら実際には口に出して言えないことを、あっさりと代弁してくれました。内心、こんな人が上司だったらな……と感じた人も少なくないはずです。「でもね、言っていることとやっていることが一致していないといやなので、言うだけじゃなくちゃんとやりますよ」と意志の強い瞳で宣言する緑さん。

「なぜそんなふうに流されず、自分の意志で自分の人生を作っていけるのか?」とインタビュー参加者の一人が聞きました。すると、「感受性が強いのかな?例えば戦争で苦しんでいる人などを見ると、どうしてそういうことになっているんだろう?と疑問に思うんです。だから本もたくさん読む。オススメはね……」と緑さんは本をいろいろ紹介してくれました。そして、こう教えてくれました。

「事実婚やリモートワークを選択したことで世界を変えたいわけじゃない。そんな大それたことはわたしにはできないけど、自分のことは自分で決めたいんです」

●村の人の生命力に惹かれて 


わたしは「緑さんが孝則さんに受けた影響は何ですか」と聞いてみました。すると即座に「生命力です」という答えが返ってきました。

「孝則さんは生きる力がすごいんです。たとえば飲む水って普通作れないじゃないですか。でも、この人は作れてしまうんです。水道の仕事をしていたというのもあったんですけど。屋根を直したり、野菜を育てたり、そういうことがすぐできる。それって、どんなことがあっても生きていけるってことですよね?すごくないですか?」とちょっと興奮気味に語る緑さん。

孝則さんも照れながら「現代文明に依存するのは嫌なんです。このあいだの台風の停電でも全然大丈夫でしたから。電気は太陽。食べ物は備蓄されているものと畑から。暗くなったら寝るだけです」とはにかむ孝則さん。緑さんいわく、川上村には「南海トラフが来ても大丈夫」と言う人たちがいるそうです。それは数々の災害から学んだことが世代を越えて蓄積されているということにほかなりません。かたや、都市にくらす人々にとっては災害は死活問題。災害の多かった今年はそれを実感する機会もたくさんありました。水道が数日止まるだけで、電気が来なくなるだけで、右往左往してしまう現代のわたしたち。その生命力のなさが少しかなしい。生命力があるということは自然とともに生きられるということ。それは人間の本来の姿なのではと思わされました。


●自分を偽らず生きること

わたしは川上村で緑さんと孝則さんに会って、損得勘定抜きで自分の感覚に従って生きることを学びました。40年近く生きてきていつもどこかに「これをしたら、周りはどう思うだろう?」と自分自身にささやいていました。そして、時にそれが何かをあきらめさせ、選ばなくていい何かを選ばせてきたように思います。だけど、二人のように生きることが自分だけの幸せをみつけるひとつの方法なんだということに気づかされました。それは大きな発見でした。

日本の社会は自分の心の正直であるよりも、周りと足並みをそろえ、その場の空気を読むことが強く要求される社会です。だけど、それこそが生きづらさの原因なのではないか。「あたりまえ」を疑い、「常識」にとらわれず、自分に正直に生きる勇気をもつ。
そして、自分がここちよいように暮らし方を少しずつ変えていく。ただそれだけで、人生は少しずつ変わり始める。そうやって、自分だけの人生を作ってけるのは自分しかいない。
そう思えたとき、川上村での別れ際に、手を振ってくれた緑さんと孝則さんの笑顔が心に浮かびました。

自分の声に正直であり、それ信じて自分の生活を変えて行くことこそが、小さいけれども社会を変えていく一歩につながる。そう確信した川上村での一日でした。


0 件のコメント:

コメントを投稿